院長コラム
保険医新聞への投稿文 災害時の心理的ピットホール ヒトは精神的に脆弱な生き物です。 災害危機を常時意識し、ビクビクしながら几帳面に対応すれば災害を避けることはできますが 精神的に耐えられなくなります。反対に何ら心配もせず、のほほんと過ごせば災害の犠牲者に陥ります。認知的不協和時には精神的負担を軽減するため、自身に都合が良いようにつじつま合わせ、言い訳を考えます。また正常性バイアスにより都合の悪い情報を無視し、異常時を正常範囲内でとらえ避難行動、対策を取らなくなります。 私のクリニックは過去3度の大きな地震に遭遇しました。1度目は開業月に起きた阪神淡路大震災です。幸い開業直前の設備に被害はありませんでした。2度目は東北大震災です。揺れは大阪でも大きいでしたが被害がなく他人事でした。3度目の大阪北部地震で被害を受けました。想定外に2階の水道管が破裂し、大量の水が噴出しました。水道管の配列、バルブ操作がパニックですぐに思いつかず、応援が来るまで破裂部位を押さえつけるといった無様な行動に走ったのです。破裂した水道管の近くの床に点検窓があり、そこを通じて直下の配電盤、エレベータ―基盤が浸水しました。その結果、電源停止、エレベータ停止を招きクリニック機能不全となりました。「2度の地震があったので3度目はない」と根拠もなく認知的不協和時を消し去っていたのです。細かく点検すれば設備に問題があったのですが、正常であると信じた正常性バイアスで痛い目にあったという訳です。 このような災害対策として、1年に1度くらいは仮想的な被害(痛い目)体験をすることが精神的疲弊を招かずかつ災害を防止する一案でしょう。 次に多数派同調バイアスが重要です。危機が迫っても周囲の多数が正しい行動を起こさなければ自身も多数に同調し誤った行動で被害者となることです。この対策は社会の民度を高め、多数が正確な危機意識判断を持つことです。同時に、少数派の中にあっても正しい判断で大きな声を上げ周囲の人々を誘導する勇者を生み出す必要があります。 |