災害対策アンケート調査報告 あいさつ文 から抜粋
「災害は忘れたころにやってくる」 これは物理学者で随筆家でもある寺田寅彦のよく知られた格言ですが、近年、阪神・淡路大震災、東北大震災、津波による福島原発事故、熊本地震、豪雨による土砂崩れなどの災害が各地で頻発し、忘れる前に新たな災害が発生すると言った状況です。自然災害に加え、テロ・戦争などの人的災害も世界で発生し拡大が危惧されています。
ところが、我々は日常生活に没頭し、これらの災害が目に見えても耳に聞こえても何か遠い彼方の出来事のように感じてしまいます。直面すれば不安になることを、言い訳を考えて消し去ってしまう心の動きがあります。心理学でいう「認知的不協和」です。「東北大震災は千年に一度くらいだから、南海トラフ地震はしばらく起こらないだろう」「自分は知識が豊富だから、いざという時は最適な判断ができるはずだ」などと明確な根拠のない都合のいい理屈で自分自身の奥に潜む不安を消し去ってしまうのです。安全に対する思い込みに陥ってしまうことです。この心理により「自分だけは安全だ」、「自分とは関係ない」と考えてしまうのです。
また、危機に直面した時、日頃の訓練、イメージトレーニングが不足すると、危機を危機として認識できない結果、異常を正常の範囲内で捉えてしまう「正常性バイアス」が生じます。同時に正しい判断ができない状況下、周囲の人の動きを探りながら同じ行動をとることが安全と考える「多数派同調バイアス」の危険性も伝えられています。危機が迫っても周囲の人が安全と過信し対応しなければ、お互いが周りに同調し間違った行動をしてしまうことです。危険から直ちに逃避しなければならない状態でも、周りが逃避しなければ同調してその場にとどまり危険に直面してしまう事態になることです。これらを打破するには繰り返し情報を提供し意識の啓発に努めることでしょう。危機意識を高めることでしょう。
本冊子のⅠ章では災害時対応についてのアンケート結果がまとめられています。防災対策への取り組みの現状を再認識して下さい。Ⅱ章では災害時に避難所などで多く生じる深部静脈血栓症の解説が掲載されています。予防のための参考にしてください。Ⅲ章では防災時に役立つ情報がメモ書きされています。貴重な情報ですのでご活用ください。
「認知的不協和」「正常性バイアス」「多数派同調バイアス」が何たるかを知り、この罠に陥らないように十分気を付けていただきたいと思います。
「備えあれば憂いなし」です。本冊子が将来起こり得る災害被害を最小限にする一助になれば幸いです。
一般社団法人大阪臨床整形外科医会
会長 前中孝文